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写真の「チカラ」 #15 野口純一

約3分
襲われるオグロヌー

野生動物の生命力に感銘を受けた瞬間

僕にとっての野生動物は「生命力」そのものだ。過酷な自然の中でも生き抜こうとする姿勢は、とても感銘を受ける。その瞬間を表現したくて、写真を撮り始めたのだ。
バイクが大好きで、北海道にはツーリングで足を運んでいた。その時から一眼レフカメラは持ち歩き、単純に「思い出写真」を撮るためにカメラを持ち歩いていた。
その後、林業などに興味があり、北海道の地で就職しようと思って移住したのだが、怪我をしてしまいその夢も途絶えた。途方に暮れているときに目に入ったのは野生動物の「たくましい姿」だった。その生命力に非常に共感を持ち、野生動物を撮影してみたいと思い撮るようになる。それをポストカードにして多くの人に知ってもらう活動や富良野の自然の素晴らしさを写真で表現しているうちに、旅行系雑誌の編集者と出会い、本格的に写真を始めたのだ。

自然相手であることを忘れない

野生動物を撮影する難しさは、「相手の時間時間軸がすべて」であることだ。野生動物がいつ何時にどこにいるのかは、経験を積めば予測はできても、絶対はないのだ。僕が彼らの都合に合わせないといけない。仮に出合えたとしても、自分の作品としてのクオリティーになる写真はかんたんに撮ることができない。この理想と現実の狭間に僕はいつも苦しめられる。それでも野生動物に出合えたときには、興奮が止まらないし、うれしくてたまらないものだ。根っからの動物好きだなと実感する。重要なのは、野生動物とそれをとりまく環境が醸し出す「空気感」を写真に封じ込められるかどうかだ。
カメラは僕にとっては、僕と動物をつなげてくれる道具(ツール)だ。メンテナンスは欠かさずしっかりとおこなっているが、いたずらに大事にしているわけではない。ときにはラフに扱うこともあり、だからこそ日々のメンテナンスとカメラ自体の耐久性と信頼性が重要になってくる。数年前からミラーレスカメラ(現在はソニーのα9 Ⅱ)を使っているが、どんどん進化していて驚かされる。当初感じたファインダーの違和感もα9 Ⅱはまったく感じない。むしろ、小型なので存在感がなく、野生動物を撮るには向いているカメラだと思う。
もし、これを読んでいる人で野生動物を撮りたいという願望がある人はぜひ、自然への畏敬の念を忘れないでほしい。自分の都合を「自然」に押し付けるのではなく、その環境を共有し、共感してほしい。自然の世界は、野生動物のほうが圧倒的に有利な環境だ。だからこそ敬う心が求められているのだ。


野口純一  のぐち・じゅんいち

埼玉県生まれ。2000年に北海道へ移住。キタキツネの撮影をきっかけに、02年より写真家として活動を開始。北海道を中心に国内外の野生動物を撮影し、雑誌やカレンダー等の各種媒体に作品を提供。野生動物に関する深い知識と豊富な経験に基づく的確で粘り強い撮影スタイルから生み出される、力強く美しい作品には定評がある。公益社団法人日本写真家協会(JPS)会員。公式サイト http://www.junsetsusha.com