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写真の「チカラ」#22 沼澤茂美

約4分

自分が感動すれば、それはきっと人を感動させるに足りる

写真を撮る上で重要だと感じるのは、「感動」すること。心が動く、それはとても人間的な行為だ。その人間らしい行為を求め続けることは、決して必需品ではない「カメラ」を握る理由には十分だ。写真は人の心を豊かにし、そして救ってくれるもの。現代ではいろいろな媒体ができて、写真の表現の仕方も変わっていく。誰もがSNSで写真を発信し、発表することができる。人からの評価を気にするあまりエスカレートする表現……。そんな時代だからこそいま一度「表現」することを考えてほしい。写真は自分の記録であり記憶。だから「人にどう評価されるか、見られるのか」ということに取り憑かれてしまうのは、少し違和感を感じるのだ。シャッターを切るときに何を思うのか、それを大事にしてほしい。わかりやすい評価や基準にしがみつくことなく、もっと本質を見極めてほしい。自分自身が感動した写真はきっと見た人も感動するはずだ。
写真家として嬉しい瞬間は、写真の真意を見抜いてくれる人がいたときだ。写真家だって悩みながら作品を世に出している。悩み苦しんだときに、立ち戻れる原点が必要だ。

静寂な世界は記憶を呼び戻してくれるキー

沼澤さんの写真を拝見したときに感じるのは、僕が思っている天体写真ではなく、まるでその場の空気を切り出し、凍りつかせたような「静寂」な世界観だ。そう思った瞬間、僕には天体写真には見えなくなる。星空をテーマにした風景写真のようなスナップ写真のような……、そしてどこか懐かしい。中学生の時に、星が大好きで父親に望遠鏡を買ってもらった。横浜の空には星がそれほど見えなかったので、月を眺めていたのを思い出す。夏休みに家族旅行で八ヶ岳に行ったときに見た空いっぱいの星々に「望遠鏡ってなくてもいいんだ」と心のなかでつぶやいた。普段見えないものが写るのが天体写真なのかもしれないが、写真作家が撮る写真には、プラスアルファ「記憶を呼び戻す」というとても素晴らしい効果がある。その時家族で夜空を見上げ、全員笑っていた笑顔を思い出す。高齢になった母の顔が見たくなった。


沼澤茂美 ぬまざわ・しげみ

天文宇宙関係のイラスト、天体写真の仕事を中心に、内外の天文雑誌、書籍の執筆、NHK天文宇宙関連番組の制作・監修、プラネタリウム番組の制作などを手掛ける。パラマウント映画「スタートレックDeep Space9」の特撮映像素材、ポスター制作を担当した。
辺境の地への海外取材も多く、最近では2012年「モニュメントバレーでの金環日食の撮影」(NHK)、2013年末にNHKスペシャル「アイソン彗星」 の取材で20日間アメリカ・カリフォルニアの砂漠地帯で天体撮影、2016年「インドネシア皆既日食取材」(NHK)、2017年 「アメリカ皆既日食取材」(NHK)がある。代表的なNHK取材として2003年「南極での皆既日食撮影」などがある。
2010年以降、ナショナルジオグラフィックツアーの依頼で「イースター島皆既日食」や「西オーストラリアバーヌルル国立公園」などのツアーに同行、2011年には単身アメリカのカリフォルニア北部の「モノ湖周辺」で撮影取材を行う。また、世界最大規模の星の祭典「胎内星まつり」の企画運営、神林村立(現村上市)天体観測施設「ポーラースター神林」・黒川村立(現胎内市)胎内自然天文館の建設監修を行なっている。
2011年、新潟市国際コンベンションセンター「朱鷺メッセ」で開催された「にいがた宇宙フェスタ」企画制作を担当する。ライフワークとして赤外写真、モノクロファインプリントの表現を追求している。2004年環境大臣賞受賞。著書多数。

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