orphotograph

写真の今がわかるWeb情報マガジン

写真の「チカラ」#23 上田晃司

約3分

まるで映画のようなワンシーンを届けたい

僕の写真は、「映像的」だとよく言われる。もともと動画を録っていたことがあり、その時に心が動かされた「ワンシーン」を頭の中で描いているからだろう。国内外を撮影で移動しているとその旅先でちょっとした出会いや発見があり、小さな「ドラマ」が生まれているのだ。その瞬間を切り抜くことで、スナップ写真にも個性が生まれ、忘れられない写真へと変わっていく……。
作品を撮るときに気をつけていることは「色感」だ。僕は逆光や煙が立ち込める場所がとても好きで、そういう場所を探しては撮影している。その際に自分らしい光や色を探し、後は思うがままにシャッターを切るのだ。そのときにもやはり動画の影響なのか、横長の比率を選ぶことが多い。4:3や16:9という映像でよく使われる比率にも馴染みがあるので、どのアスペクト比でもイメージが湧く。

計算された撮影ほど完成度は上がる

海外での撮影に重要なのは、段取りだろう。今回の掲載した作品のキューバの写真はまさにそれを具現化した作品。この方向に夕日が落ちるのは3月のみなので、そこを狙って渡航する。細かく日の落ち方を計算してそこに行けば、自分がイメージしているドラマティックな瞬間が撮れるのだ。またニューヨークで撮りたい写真は、モクモクと煙が漂うシーン。だからこそ冬に行くほうがそういうシーンに出くわしやすい。予め撮りたいシーンをイメージすることで、その場所に行くことの「意義と意味」が明確になり、作品のクオリティーは上がるのだ。
スナップ写真は1回で狙った写真が撮れるとは限らない。何度でも通わないと撮れないことがあるが、その可能性を少しでも高めるための努力は「段取り」の中にある。 2020年はマイナーシティの撮影にも挑戦したいと思っている。あまり知られていない街にどんな人や文化が根付いているのか……。自分自身も興味が湧くし、見た人にもその感動を届けたい。

引き出しの多い写真家の代名詞

上田さんの写真には、いつも驚かされる。まるで映画のワンシーンのようなドラマティックさを感じ、海外嫌いの僕も「行ってみたい!」と思わず思うような迫力の写真だ。その写真の中にいつもひらめきがあるのだ。上田さんはドローン撮影も含めて、色々なカメラや手法を用いて作品を創り上げる。だからこそ、そこには引き出しの多さを感じ、僕のポートレート撮影のときにも大いに刺激を与えてくれる存在。マンネリという恐怖と闘い、アイデアを練り上げて、人とは違うものを必ず入れてくるのだ。まさに「勤勉な写真家」という言葉がとても当てはまる。今にも動き出しそうな彼の写真は、家に飾るにはもってこいの写真だ。


上田 晃司 うえだ・こうじ


米国サンフランシスコに留学。写真と映像の勉強しながら、テレビ番組、CM、ショートフィルムなどを制作。帰国後、写真家である塙真一氏のアシスタントを経て、フリーランスのフォトグラファーとして活動開始。人物を中心に撮影し、ライフワークとして世界中の街や風景を撮影。近年では、講演や執筆活動も行っている。主な著書は、「写真がもっと上手くなる デジタル一眼 撮影テクニック事典101」や「写真が上手くなる デジタル一眼 基本&撮影ワザ」「ニコン デジタルメニュー100%活用ガイド」などがある。