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写真の今がわかるWeb情報マガジン

「コロナ時代」に想うこと ー変わる価値観ー

約4分

新型コロナウイルス感染拡大の影響で、変わりゆくセカイ。人と人の関わり方は急速なスピードで変化し、そして今までの習慣や常識は変わり果てていく……。
カメラ業界と写真業界にもたらした影響は大きく、新型コロナは業界からカメラと人と撮る機会までも奪っていく。

「これでいいのだろうか」

そんな疑問が心のなかでふつふつと湧いて出てくる。生きることが窮屈で、「写真機」という道具を媒介にして自分の伝えたいことを投影する。それこそが「写真」なのだ。こんな時代でも僕らには撮りたいものがある。だから、がむしゃらにカメラを構え、もがき苦しみ、そこにある「真実」を見つけ出したいと思う。
ポートレートでの作品作りをメインにしている僕にとっては、まさに死活問題だ。その理由は、2020年から出てきた「ソーシャルディスタンス」という言葉が、作品の質や方向性を変えていくのではないかと恐怖したからだ。人を撮る僕にとって、今の時代は生きづらい……。それでも撮りたい理由はただ一つ。そこにはきっと人としての「真理」があると思ったからだ。人は万能ではない……。だからこそ失敗はするし、うまく行けば逆に慢心を生み、落ちていく。それが当たり前である生き物、それが「人間」。そういう良いところも悪いところもカメラは浮き彫りにしてくれる。
僕は人にカメラを向けるのが怖いと思うことがある。そこに人としての「誠」が写し出されているのなら、触れてしまうことにどこか恐怖が湧いてくる。しかし恐れれば恐れるほどに、興味が湧くもの。その「好奇心」こそが、写真を撮ることの醍醐味なのではないか。その点を言うのであれば、なにもポートレートだけではない。風景写真もスナップも鉄道や航空機写真も、その「好奇心」が為せる技なのだ。人が人らしく生きていくため、絶対的に必要な要素が「好奇心」。それをカタチにしてくれるのが「カメラ」の存在だ。

カメラはファンタジーな道具

悪いことばかりでもない。新コロナ時代のおかげで、表現したいものが増えた。今までは、美しく写真を撮ることが目標だったが、もっと身近な、そう、なんでもない「日常」の中にある女性の姿を写し出せないものか……。そんな新しい「好奇心」が湧いてきた。
普通に目にする光景が、どんどん乖離していく時代だからこそ、半径約3㍍以内で起きることが、こんなに「新鮮」で貴重であるのかということを、新型コロナウイルスは教えてくれた。その距離感に真価を見出したから、そういう女性の姿を写真に残したくて、いまはシャッターを切り続ける。
友人など身近な女性を撮影して感じることは、改めて「人とは美しい存在」であるということだ。今までは気づけなかった「なにか」に気付くことで、見え方が変わり、写真やその人に対する印象が変わる。カメラは今の時代では「高級品」なのだろう。スマートフォンのカメラ機能でも確かに写真は撮れる。けれど、写真機だからこそ、なし得る表現や描写も確実に存在するのだ。レンズを交換し、そうすることで写せる世界が大きく変わったり、f値の小さな明るいレンズを使うことで、まるで映画のワンシーンのような劇的で幻想的な写真を撮ることができる。自分の目に写るものとは違う世界が見えるのは、写真機だからこそなし得ること。もっともっと多くの人にカメラを握ってほしい。そして、ファンタジーの世界へ迷い込んでほしいと思う(笑)。

コロナ時代だからこそ感じる僕なりの「本質」を撮る

最近は室内で撮ることで、今までとは違う女性の姿を撮れるように試行錯誤している。人は他面的であり、屋外での撮影では感じることができない側面(顔)が見えてくる。昔、某写真家の先生に言われたことがある「人の一側面だけ撮れただけで『すべて』を写せたわけではないことを覚えておけ」と。少しその言葉の真意がわかった気がする。新型コロナウイルスは僕に新しい価値観を与えてくれた。苦手としていた女性の柔らかい部分を、どう表現するのかを考える機会ができ、僕自身の新たな側面にも気付くことができた。写真は奥深し。そして女性はさらに奥深し。だからこそ面白い。

まだまだ続く新型コロナウイルス感染拡大の影響。その影響下で自分なりにできることをこれからも模索したい。そして、それを丁寧にひとつひとつカタチにする。このような状況下でも、創意工夫して素晴らしい作品を残してくれる写真家の写真を、リアルな空間で見つめる日常が戻ってくる2021年であってほしい。そして、多くの人がカメラを片手に、新しい価値観(側面)を見出してほしい。そこにはちょっとした勇気が必要なのかもしれない。



撮影・文/大貝篤史 モデル協力/マヤ

■使用カメラ:Panasonic LUMIX G100
https://panasonic.jp/dc/products/g_series/g100.html