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写真の今がわかるWeb情報マガジン

田口るり子の「世界観」を感じる

約5分

自らを形成するすべての思いや事なりを表現する

若くして写真家として作品を発表し続ける田口るり子さん。彼女の目には何が写っているのか…。そんなことを、いつも考える。
独創的なのにも関わらずストレートなまでに自己のあり方を形にする写真家。写真という媒体を介して、己に起こる出来事を表現し続けている。

彼女の代表作である「SCAPE」(2016-)は女性のヌードでありながらも、それを一切感じさせず、新たな「美」と「価値」を与えてくれた。僕にとってはとても衝撃的であり、到底真似のできない領域の話である。それは月日が経つごとに進化した。「KIYOKO」(2017-)シリーズでは、ドキュメンタリーの集大成としての写真作品であり、彼女ならではの親族を見る「目線」がとても新鮮かつ鋭いものに感じた。「田口の目線」、、、、それは人とは少し違った角度から切り込んだ鋭いものであると確信した。

そんな彼女の最新作が今回の「CUT OFF」だ。この作品には、新型コロナウィルス感染拡大での世界的衝撃を受けてた「今」が写されている。彼女なりに「生と死」を感じ、そしてそれを「セルフポートレート」として表現。
髪の毛に「生と死を感じた」と話す彼女に僕は少し戸惑った。概念的には理解できても、それが具現化した世界でどれだけの意味を持つのか…、それが分からなかったからだ。そこで僕自身も髪を少し切ってみた。「パサ」と落ちる髪の毛をみてハッと気付かされた。カラダから切り離された「僕の一部」が今「死んだ」と思えたからだ。なんでもない日常や行為が、あるインパクトのある出来事でセンセーショナルに見える。それこそ、「コロナショック」なのだろう。

生きるものはいつか死ぬ(滅する)。その因果をどう感じるのか。それはだれもがその恐怖から、目をそらしたくなる「課題」だ。田口氏はその課題に自分らしい切り口で挑む。それこそが「CUT OFF」という作品なのではないか。

「SCAPE」 ©︎田口るり子

モノクロという潔いセカイ

「Simple Is The Best」というが、それは究極に難しい世界だ。物事は複雑化すればするほど、じつは簡単に作れてしまう。しかし、シンプルにしようと思うほど極端に難しくなり、人は試行錯誤するのだ。モノクロ写真はそれに近い存在だと僕は思う。

色がない世界…。それはシンプルだが描きづらい世界。手のひらから水が少しずつこぼれていくような、そういう錯覚を覚える。
田口さんの作品でいちばんの見所は「そこ」だろう。モノクロ写真作品を多く発表しているが、どれも破綻せず、写真としての「意義」を心底感じるし、そしてなぜかどことなく深い部分に人には言えぬ「苦悩」が渦巻いている。「清廉潔白」と「混沌なる漆黒」が混じり合っているかのようだ。相反するものを共存させるには「力(パワー)」がいる。そのパワーこそ写真家の「チカラ」なのではないか。
アサヒカメラ時代にはスナップの巨匠・中藤先生の写真をよく拝見させてもらえる機会があった。その時にもどこか物寂しいセカイと情熱が同居していると感じた。街に溢れる活気と人が生きた実感が中藤先生の写真には、いつも見える。田口さんの撮る写真には、「生き様」が刻まれている。だからこそ、自身の「理」を写真で表現するときには、モノクロ作品になるのかもしれない。
彼女の「白と黒」に込められた思いを是非多くの人に感じ取ってほしい。

文/大貝篤史

■開催概要
田口るり子写真展「CUT OFF」

2020年10月29日(木)〜11月15日(日)
火〜金 12:00〜19:00
土・日 12:00〜18:00
ナイトギャラリー 11月13日(金) 12:00〜21:00
休廊:月曜日
会場:コミュニケーションギャラリーふげん社

〒153-0064 東京都目黒区下目黒5-3-12
TEL:03-6264-3665 MAIL:info@fugensha.jp
展示構成:池谷修一、田口るり子

■イベント
10月31日(土)14:00〜

ギャラリートーク 田口るり子 x 飯沢耕太郎(写真評論家)

デビュー時から長年田口るり子の作品を見続けている写真評論家の飯沢耕太郎さんをお招きして、ギャラリートークを開催します。
参加費 1000円(要予約)
※ご予約は電話とメールで承っております。
TEL:03-6264-3665 Mail:event@fugensha.jp
※ライブ配信ご視聴希望の方はこちらからチケットをご購入ください。

田口るり子 Ruriko Taguchi

愛知県名古屋市出身。2003年から独学で写真を始める。
その年の富士フォトサロン新人賞2003にて、新人賞を受賞。それを機に写真家としての活動を始める。
以後、現在はフリーランスの写真家として、音楽関連、雑誌媒体などの仕事をしながら、女性の背中だけを集めた「形骸土木」(2010〜)、ヌードを景色のように見立てた「SCAPE」(2016〜)、祖母のドキュメンタリーポートレート「KIYOKO」(2017〜)など常に人物をテーマに作品を制作し、国内外の写真展や誌面で発表し続けている。
公益社団法人日本写真家協会会員。日本舞台写真家協会会員。facebook  https://www.facebook.com/ruriko.taguchi.1
instagram  https://www.instagram.com/ruriko_taguchi
webサイト rurikotaguchi.jp