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記憶に残したい……だから「フィルム」で撮る

約5分
明石まやさんのフィルム作品その1

今を切り抜いているという感触

 被写体としても活動しながら、自身もフィルムカメラをこよなく愛する明石茉弥さん。愛用しているカメラはフィルムのEOS Kissシリーズだそうだ。デジタルの世界が身近にあるはずの20代の若者がなぜフィルムで「あえて」撮影するのか……。その問いに彼女は答えたくれた。

「フィルムで撮る一番の理由は、デジタルカメラで撮影するとどこか記憶に残らない気がします。デジタルカメラは後で色々といじることもできるし、何枚でも撮影することができます。そういう意味ではとても便利だと感じていますが、だからこそ『瞬間』を切り抜いたという感覚があまりにもありません。その点、フィルムの場合には大事に撮りますし、その瞬間にほぼすべてが終わっています。そのことが『あ、今写真を撮ったんだ』という自覚を生み出してくれます。デジタル写真は撮った写真に対する重みが軽い気がするんです。一枚一枚大切ではない気がしてしまう。フィルムは撮れる枚数に制限があるので大事に撮るし、その分一枚一枚にどこか重みがあります。そういうところに私は価値を感じています」

明石まやさんのフィルム作品その2

 デジタルカメラは装着している記憶メディアの容量にもよるが、何百枚、何千枚の写真を撮れるので、たしかになんとなく一枚一枚を大切にして撮ろうと思えない部分もある。意識の問題ではあるが、最大で36枚しか撮れないフィルムなら、一枚一枚大事にしたいと自ずと思うだろう。理由はそれだけではない。

「色味に関してもフィルムの方が好みです。私はカメラマンではないので難しいことやフィルムごとの特性などわかりませんが、フィルムで撮った写真は、どこか懐かしい完成されていない色味だったり、フィルムのノイズ感は昔の記憶を夢で見ていたように感じられることで、自分自身がなんとなく楽しめるんですよ。そこがとても大事だし、もっとも大切にしていることです。またフィルムで撮ると、汚いものが良く見えたり、良いと思ったものが汚くみえることがあります。掲載しているりんごの写真はまさにそうで、撮ったときには汚いなーと思って撮ったのに、現像から戻ってきた写真を見ると、当時の自分の『心』が写し出されていて、不思議といい写真だと思えました。そういう魅力がフィルムにはあるように思います」

明石まやさんのフィルム作品その3

 そんな明石さんはいつから写真を始めたのだろうか。

「私が写真を始めたのは大学1年生のころです。それまではアイドルが大好きだったので、推しのアイドル写真を見るが好きだったぐらいです(笑)。在学中に写真サークルの被写体を頼まれることがあり、その時の写真をみて、自分のいいところも悪いところも写っていて、自分でも撮ってみたいと思うようになりました。始めた頃は周りの勧めもあってミラーレスカメラだったんです。だけど、途中からフィルムの楽しさを発見してしまい、それからはほとんどの日常写真はフィルムで撮ることが増えました。私なりに、写真を撮るときのモチベーションがあって、気分がいいときは友人など人を撮ることが多いです。逆に元気がないときには、人とか関わるとそれなりに体力がいるので、風景写真やスナップを撮ることが増えます。自分のテンションや気分で撮るものが変わります。それも写真の面白さです」

明石まやさんのフィルム作品その4
明石まやさんのフィルム作品その5

その「甘さ」に優しさを感じる

 そんな明石さんにとってはフィルムで表現するということはどんな意味があるのだろうか。

「普段からカメラは持ち出すことは多いです。友人と会うときや旅行に行くときなどがメインですね。フィルムで撮りたいけど、デジタルカメラでも自分のイメージした写真が撮れるようになれば両方持っていきたいです。私にとっては、フィルムの方が自分のイメージを簡単に具現化できます。フィルムの特徴的な画作りは今風な表現だと『エモい』と思っている人は多いと思います。私はすこし違って、フィルムが醸し出す『甘さ』にとても心地よさを感じています。デジタルだとパキッとしているので、わかってしまうアラもフィルムなら優しくて許される気がします。そういう『包容力』がある感じが私にはたまらなくいいんです。これからもフィルムで写真を撮り続けたいです」

 明石さんの話を聞いていると、共感できるポイントがいくつもあった。世代は違えど、思うことはさほどかわらないのだということに少しホッとした。筆者の若い時代にはデジタルカメラはまだまだ普及しておらず、フィルムカメラしかなかった。だからフィルムから始めたし、今も懐かしくてフィルムカメラを持ち出すことがある。その写真を見て感じるものは同じであれば、これからもフィルムは『進化する表現』としてまだまだ需要があるに違いない。余談だが富士フィルムのフィルムは年々生産終了が増え、寂しく感じる。全盛期に比べれば、消費量は圧倒的に少ないとは思うが、ぜひこれからもフィルムを作り続けてほしい。そして、どの世代にでも共感を持ってもらえるフィルム写真の存在は、カメラの「キーポイント」になるだろう。

明石まやさんのフィルム作品その6

文/大貝篤史 写真/明石茉弥

■明石さんの写真はコチラ■
明石茉弥  http://35mm50mm.com/girls-photograph-12/
      https://orphotograph.com/2021/01/15/column210115/

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