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Visual Storyteller #01 : rin

約6分

Visual Storyteller #01

rin @Instagram

「人と対峙することで己を知る」

―富士フイルムのGFX 50Sでポートレート写真を撮るrinさん。Instagramを中心に日常感のある女性ポートレートを撮るrinさんの作品を撮るきっかけやその原動力について聞いた。

「カメラは大学4年生から始めました。もともとは写真を見ることが好きだったんです。当時の趣味は田舎をブラブラ散策することだったので、その時見た景観を写真に収めたいと思ってカメラを始めました。ただ実はあまり長続きせず……飽きちゃったんですね(笑)。眼の前に広がる光景と自分が当時撮った写真にあまりにも乖離がありました。それがショックでもう撮るのは辞めようかなと思っていたんです。そんなときに出合ったのが『人を撮る』ということでした。そこからはずっとポートレート沼にハマっています」

―風景を撮っていたのに、人を撮ることに目覚める……。それはどんなきっかけだったのか。

「自分が大好きなカメラマンがいたんです。その方は風景の中に人物をポツンと置くように撮影している方だったんです。で、たまたまそのカメラマンがSNS上で、時間が空いたからだれか一緒に撮りませんか?という書き込みをしていて、それを見てこれは会ういいチャンスだと思って手を上げました。ちなみに往復6時間かけていきましたね。そのときに撮らせてもらって、風景の中で人を撮ることの楽しさを感じることができました」

―人を撮るということの楽しさを見つけたrinさん。そこまでたどり着くのにかなりの紆余曲折があったのだろう。「写真機」を持つということはそういう紆余曲折を幾度も繰り返し、最終的になにかにたどり着くことに意味がある。

―カメラはどんなカメラを使っていのか。興味があったので聞いてみた。

「当時からフィルムカメラを使っていました。Nikon F100ですね。とてもコスパの良いカメラで使い勝手も上位機種と遜色がなかったんです。だからこそ、ホント手に馴染んで大好きなカメラですね。実はデジタルカメラ歴のほうが短いんです。ここ半年ぐらいですね、デジタルカメラを使っているのは」

―フィルムで自分の好きな風景や人がいる空間を撮る。それがrinさんのフォトライフスタイルだ。その原型は、自分らしい個性を残しつつも、眼の前に広がるセカイを後世に残していきたいという思いからだ。

「そうですね。眼の前に広がる世界を撮りたいという思いから、少しずつ変化していき、今ではモデルの『日常感』を感じるような写真を撮りたいという思いに変わりました。自分が会った人たちとの瞬間瞬間を残していきたい、その人たちとの思い出を記録したい……。そういう思いは日に日に強くなり、今の撮影スタイルになったのだと思います」

―そこで思うのは女性の日常感を切り抜くことの難しさだ。家族や恋人ならそれも可能だろう。けど、それほど一緒に時間を過ごすことができない人の「日常感」や「生活感」を感じる写真を撮るためには、相手に短期間で信用されないと難しい。信頼されて、心を許してくれる……。そんな関係性にこそ見えてくる景色があるのではないか。あえてその難しい「課題」に立ち向かう原動力はどこにあるのか。

「女性というわけではなく、日常を残すということはあまり普段から率先して行っている人は少ないと思います。それこそカメラを持っていないと、そもそも残そうとなんて考えない。でもきっと残しておかないと後悔することになるのでは僕は思っています。 『あなたはこんなに素敵な顔をしているよ』ということを客観的に見せてあげたい。そういう思いが原動力につながっています」

「今、若い人を被写体に撮影しているのには意味があります。これからどんどん歳をとっていくにつれて、いろいろなことが起きますよね。そんなときに『過去の思い出』を振り返る機会があるといいなと思っています。美しかった時代というか、輝いていた時代を残しておくことで、まるで『卒アル』を見返すように、その人の周りの人たちと一緒に振り返ってもらえるような写真を一枚一枚大事に撮影したいです。それが僕がカメラを握る理由なのだと感じています」

―そんなrinさんの愛機は富士フイルムのGFX 50Sだ。

「僕が最初に購入したカメラはPENTAX 67だったのですが、自分の技量が届かずに手放してしまったんですね。今となっては後悔しています(笑)。そこから35mmのフィルムカメラを使っていたんです。デジタルカメラを購入するなら、デジタルカメラには『こだわり』を持ちたいと思って当時使いこなせなかったラージフォーマットである富士フイルムのGFX 50Sを購入しました。それこそ自分への『戒め』のようなものですね。昔に比べれば使いこなせている手応えは感じていますが、まだまだGFXの性能に頼っている気がします。ちなみにPENTAX 645Zも使っていたんですが、自分には合わないなと」

「プリントは頻繁にします。気に入った写真やターニングポイント的な写真が撮れたときには、必ずプリントします。プリントはラボに出していて、いつも写真弘社にお願いしています。プリントサイズはA4がメインです。用紙にはそれほどこだわりがなく、プリントすることに意味があるのだと感じています。出来上がった写真は、ポートフォリオとして保管することもありますし、被写体になってくれた人に贈呈することもあります」

―写真がうまくなる人の特長はきちんとプリントしていることだ。最近ではSNS系での投稿のみで終わってしまっているケースがあるが、個人的にもプリントすることをおすすめしたい。それがラボ出しでも自宅でのプリンター出しでも構わない。自分の写真を客観的に見る手段として、とても重要だし、人に写真をしっかりと見てもらうことでカメラを握る楽しさが倍増する。
そんな楽しい側面もあれば、人を撮ることの難しさも浮き彫りになる。

「作っていない顔を引き出すことに、いつも苦労しています。悲しい顔、楽しい顔などいろいろな顔を撮りたいのにそういう『素』の部分は隠そうとされてしまう。でも僕はそこにこそ美しさやキレイさなどがあるのだと思っています。着飾っていない表情を引き出すためにも、まず自分のことをたくさん話しますね。自分のことを開示していくと自ずと相手も自分のことを話してくれますし、警戒心も低くなります。また技術的には、シャッターを切るタイミングを少しだけずらしています。素の表情に戻る瞬間を撮れる可能性があがりますよ」

ーまず自分をさらけ出す……。それはポートレート作品を撮るうえで、とても重要なことだ。それができてようやくスタートラインに立てる。人と対峙して写真を撮ることは、自分自身を世の中に曝け出すのと同義なのだ。これからもrinさんの写真から目が話せない。

■model : 凪葵

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Profile

rin @instagram

秋田県出身千葉県在住。”誰か”の日常の素敵さを残したいと願い、身近な自然や街の風景、そこに人物を入れたスナップ×ポートレート、風景×ポートレートといった写真を撮影。年間300本近くのフィルムを使う無類のフィルム好き。


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