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SIGMA 85mm F1.4 DG DN | Art SHOOTING REPORT

約5分

小型かつ軽量であることのアドバンテージ

2020年8月下旬にシグマから発売されたポートレートの新定番とも言えるSIGMA 85mm F1.4 DG DN | Art。ミラーレスカメラ専用設計になったことで、SIGMA 85mm F1.4 DG HSM | Artと比べて、あからさまに「小型かつ軽量」なのだ。

本来であれば、レンズを語るうえで写りやAF駆動性能などを真っ先に挙げるのが普通だろう(笑)。しかし、ユーザー目線で見た場合、このレンズでもっとも誇るべきポイントは「小型で軽量」であることは、現場にいけばよく理解できるはず。筆者はSIGMA 85mm F1.4 DG HSM | Art(SAマウントのためMC-21を使用)をPanasonic LUMIX S1にて愛用している。このレンズの写りに関しては申し分がなく、被写体をくっきりと浮き上げてくれるような描写力と絞り開放で使用しても非常に濁りの少ない幻想的なボケ味を僕の写真に与えてくれる「業物」だ。ただこのレンズを現場に持っていくのは非常に「覚悟」がいるのだ。撮影時には、同社の24mm F1.4、35mm F1.4、そしてLUMIX S PRO 50mm F1.4を同時に持っていくのだが、このレンズだけとてつもなく「重い」のだ。その重さはカメラバッグに詰めた瞬間にわかるほど。描写力が優れていても、重く大きなレンズは機動力という面で非常に不利になる。正直置いていきたい……と何度となく思ってしまうレンズだった。だからこそ大きさと重さは「撮影時の重要なポイント」になるのだ。

新登場したSIGMA 85mm F1.4 DG DN | Artは約630㌘と非常に軽量。全長も約9.4㌢と非常にコンパクトなのだ。このサイズ感ならフレキシブルに使用できるし、体への負担も最小限になる。焦点距離が85㍉なので、人物撮影には最適なレンズ。だからこそ軽快に振り回しながら使いたいと思うことが多い。

想像してほしい。モデルを砂浜で走らせながら、周りにまとわりついて撮る……。そんなシーンでも、このサイズならストレスを感じることなくカメラを持ち続けることができる。どんなに性能がいいレンズでも「持ち出す」ことが億劫になってしまえば、ただの「文鎮」と変わらない。

Ⅱ型としての役割をしっかりこなしている

「何かを得れば、何かを失う」それが世の常だ。しかしこのレンズには当てはまらない。コンパクトになっても、レンズ自体の描写力は非常に優れている。開放値であるf1.4で使用しても、合焦部分は非常にシャープでありながら、周辺に向けて濁りのない素直なボケ味が楽しめる。少し絞り込むことでよりシャープになり、細かいディテールも表現できるレンズだろう。開放値から全域で解像感の高いシャープな絵づくりなので、あえて絞り込む必要がないのでは…と思うほど。ポートレート撮影であれば、背景のボケ具合を調整するという意味合いで、絞り値を変える……というイメージが適しているだろう。それほど開放からシャープ。少し迷いのある濁ったボケ味を期待したい人にはおすすめできないレンズだが、ディテール重視の人には、間違いなくおすすめできる至高のポートレートの定番レンズとなるだろう。写りには一切の妥協がなく、ミラーレスカメラ専用設計にすることで全長を短く、その分重さも軽量になった。時代に則したレンズをきっちりリリースしてくれるシグマには非常に好感が持てる。まさに正常進化したⅡ型のような85㍉単焦点レンズだ。

死角のない現代ニーズに応えたレンズ機能

新しいデザインと設計となったことで、さまざまな便利機能が追加された。その中でも注目したいのは「デクリック機構」だ。絞りリングのクリック感をなくすことができる機能なのだが、これが動画用途で使用する場合には重宝する。動画撮影の場合には、露出を撮影中に変更したいシーンがある。その際に「カチ」という音をマイクが拾ってしまい難儀することも……。これは動画専用設計のレンズを使えば解消されるのだが、シネマレンズは何と言っても「高額」なので、おいそれ個人が買えない。スチルレンズがそのまま動画撮影に使えるのが「一眼ムービー」のいいところであり、そのような使い方を意識して開発されたレンズだ。一部のマニュアルフォーカスレンズでは、精密ドライバーなどでクリックをON/OFFできるものもあるが、現場でそれをやるのはナンセンスだし、なによりも手間がかかる。このような機能が追加されたことで、商業目的でカメラを使用することを強く意識したレンズであると実感できた。まさにプロモデルとはこのことだろう。ほかにも「絞りリングロックスイッチ」が採用されたり、レンズ本体に「AF/MF切り替えスイッチ」が付いていたりと、とっさの操作に有効な物理ボタン(スイッチ)があることで、撮影に集中できるのだ。まさに「かゆいところ」に手が届くレンズだ。

LUMIX Sシリーズユーザーは、純正レンズとしてLUMIX S PRO 50mm F1.4しか選べないので、シグマ製レンズは非常に重宝する。LUMIX S5との組み合わなら非常にベストマッチな組み合わせだろう。Lマウントに本腰を入れて取り組むシグマの今後に注目したい。


■写真・文/大貝篤史

■SIGMA 85mm F1.4 DG DN | Art  https://www.sigma-global.com/jp/lenses/cas/product/art/a020_85_14/