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35㎜でポートレートを撮る

約4分
Sony RX1

ポートレート撮影というと、85mm前後の焦点距離を使うことが多い。最近のSNSでは広角系のポートレート写真が増えてきている。そんな中、35㎜でポートレートを撮影するポイントを上げてみた。

筆者はポートレート撮影を行う際には、50mmを愛用している。大学生の時に写真の授業を受けた際に「自分の焦点距離を見つけろ」と言われ、しっくりきたのが50mmだった。それから50mmの単焦点レンズを装着したカメラをぶら下げてスナップやポートレートを撮影する日々だった。著者の友人は風景写真が趣味で広角系のレンズを主力として撮影していたため、二人で風景写真を撮りに行くとどうしても狭いなーと感じることが多かった。そこで手に入れたのが35mmである。  ところが、35mmという画角がとても苦手でうまく撮れず、ほとんど使わずにしまいこむ日々が続いていた。人物撮影には少し広すぎる……。そんなイメージが今になっても脳裏に焼き付いていた。そんな筆者が35mmを最近は率先して使うようにしている。そんな「特訓」の中、感じたのは以下のポイントだ。

  • 周囲の情報を率先して入れることで広すぎる空間を埋める
  • ・被写体により寄って撮影を行うことでのメリット
  • ・35mm F2系のレンズであれば比較的小型かつ軽量なのでフレキシブルに撮影できる

というポイントがあることが感じ取れた。この撮影で使用したカメラはソニーのRX1というコンパクトデジタルカメラだ。フルサイズのコンデジということでかなり異色な存在だが、ツァイスレンズが付いているので非常に味のある写りをする。お気に入りのカメラだ。掲載した作例をもとに、3つのポイントを少し掘り下げよう。

「周囲の情報を率先して入れる」

日頃から85mm前後の焦点距離を使用している読者は35mmがとても広く感じるだろう。被写体であるモデルの周りの空間がどうもスカスカに感じるからだ。そこで周辺情報を意欲的に増やすことで、空間を埋めていき、情報を「お弁当箱」のようにしていく。あくまでもメインのおかずは「モデル」なので、そのあたりを意識して、周りの情報を埋めていこう。もちろん、すべての写真をそうする必要はなく、メリハリやバリエーションをつけていくという意味でこの手法を使うのがありだ。

「被写体に寄るメリット」

35mmの場合には85mmと比べてモデルに接近して撮影することが増える。そうすることで、より日常感と親近感のある写真が撮れる。85mmはポートレートとして王道だし、ゆがみなども少ない焦点距離。なので、ポートレートには「最適」なレンズだろう。あえて35mmで撮影する動機を見つけることで、自分の作品のバリエーションを増やしていくのに、率先して使うといつもとは違う写真を撮ることができる。ちょっとしたモデルのしぐさなどに気づくゆとりが生まれるだろう。

「35mmの軽快さを生かした撮影ができる」

35mmは「お散歩レンズ」としても万能に使える焦点距離だ。肩肘張らずにリラックスしてモデル撮影を行うにはうってつけだ。日常感のある気さくなモデルのしぐさなど、一緒に歩きながら撮影したり、街中でスナップ撮影のように撮るのもいい。85mmの明るめレンズや50mmでもLUMIX S PRO 50mm F1.4のように、写りは最高だが重いレンズをハァハァ言いながら無理に撮影するよりも意外に35mmの方がいい表情を捉えることができるかもしれない。そういう「可能性」を感じるのが35mmという焦点距離だ。

スナップ、風景、さらにポートレートにも幅広いニーズに対応できるからこそ使いどころが難しい焦点距離なのが35mmだ。裏を返せば、この焦点距離をしっかりとマスターすることでより幅広いジャンルの撮影が可能となり、自分の写真表現を確立させることができるかもしれない。そういう可能性を秘めた焦点距離だ。ぜひ、皆さんも「35mmマスター」になってもらい、身近な「人」を撮影する癖をつけてほしい。

文・撮影/大貝篤史 モデル/たま