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写真の今がわかるWeb情報マガジン

写真の「チカラ」 #05  金森玲奈

約3分

「もうひとりのワタシ」=「写真」

私にとっては、写真は自分の想いをだれかに伝えようと努力をするきっかけとなった大切なものだ。中高生時代は流されやすい性格だった私。大学一年生の頃から猫を撮り始め、それが私のコミュニケーションのひとつでもあった。写真と出合ったからこそ「人」として自分を認められるようになったのだ。それは大学三年生のときの出来事。大学内の写真コンテストで佳作に選ばれた。それはとてもわかりやすく「写真」を評価された瞬間だった。写真が代わりに私のことを説明してくれたように感じた。写真だからこそ伝わる私の内なるものは確かに存在するのだ。
それから私は大好きな猫をずっと撮るようになった。

「家族のキヲク」

今回この企画で飾った写真は、6年前に右手を切断するほどの大怪我がきっかけで引き取った子(猫)と、5年前の深夜に自宅前の路上で行き倒れていたところを拾った耳の聴こえないてんかん持ちの二匹の猫との写真だ。三本足の子はピーターパンのフック船長にちなんで「フック」。耳の聴こえない子は小麦色の毛並みから「ムギ」と名付けたが、もっぱら「ふー」と「むー」と呼んでいる。
どの写真を掲載しようかと、これまでの写真を見返してみた。ふーを引き取ると決めて引っ越した今の家のリビングは、前の家で使っていたちゃぶ台ひとつしかない質素な部屋だった。最初に買ったのはダイニングテーブルで、この子たちと暮らす時間が積み重なる中で少しずつ家の中に物が増え、猫たちはお気に入りの場所ができ、それが写真に写っている。それはこの子たちとの思い出というだけでなく、私たちが家族として過ごしてきた6年間の記録でもあるのだと改めて思った。
三本足と耳が聴こえないというハンディキャップにだけ目を向ければ、この子たちは不幸なのかもしれない。けれど、それがきっかけで私たち夫婦の元に来てくれた二匹のいる生活は、大変なこともあるが毎日が幸せに満ちている。そしてその幸せな瞬間を残せる写真という存在が、自分のライフワークであることも、とても幸運だと思えるのだ。当たり前の日常は過ぎ去って初めてその大切さに気付くことがある。その時に思い出すのは何でもない日々のふとした瞬間なのかもしれない。だからこそ、そんな日々をこれからも残していきたいと思う。


金森玲奈  かなもりれいな

1979年東京都生まれ。東京工芸大学芸術学部写真学科卒業。美術大学等に勤務しながら作品制作を続け、2011年よりフリーランスとして活動を開始。メーカー系ギャラリー他にて、個展・企画展多数。富士フォト新人賞2003 奨励賞受賞。東京工芸大学・清里フォトアートミュージアムにて作品収蔵。

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