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佐藤倫子さんのスナップの観点

約4分

スナップ写真での着眼点の重要さ

 現在、東京のTHE GINZA SPACEと吉井画廊で写真展「creative snap」を開催している写真家の佐藤倫子さん。いままでの作品の集大成的な位置づけが、この写真展だと佐藤倫子さんは話す。佐藤さんは日頃どんなところに着眼して作品を創り上げるのか。

「スナップ写真というとフラフラとなんとなく歩いて撮影しているイメージかも知れませんが、私の場合は『作品を撮ろう』と思って散策します。せっかくカメラを持ち出すわけですから、一歩一歩無駄にしたくないですしね。そういう気持ちで街を歩いていると、自ずと撮りたい被写体に巡り合えることが多いです。スナップ撮影をするときに思うのは、『欲張らない』ことです。これだと思える空間に遭遇したら、そこに着目し続けることをおすすめします。写真は引き算ですので、時には諦めることも重要です」

 そう話す佐藤さん。これを聞いて、佐藤さんの言うようにスナップ写真を撮るつもりで街を出歩いてみた。そこで気付かされたのは、自分自身が整理できるということ。目的意識をしっかり持つことで、自分の撮りたいものがなんなのかがわかりやすくなった。これはみなさんも実践してみるといい。それでも、佐藤さんのように無機質なものが多い街中で、これだけ鮮やかな色を見つけ出すのは難しい。それこそ意識を集中していないと見逃してしまいそうだ。

「空間が壊れたテレビの砂嵐のように見えるんです。なんとなくジージーみたいな…。だからもしかしたら人とは少し違うように空間が見えているのかしれませんね(笑)。あと、撮影時には水平や歪みにも注意を払っています。これは資生堂時代からの癖かもしれません。なんとなく歪んでいたり整理されていないと嫌なんですよ」

街を歩いていてこういう空間を見つけるのは、かなり意識していないと筆者には難しいと感じた

トタンという被写体への思い

 また、この写真展には「トタンコーナー」がある。筆者的にはこのコーナーが一番好きだ。トタンこそ日頃からノーマークだし、気にして街を歩いたことはない。そんな残念なトタンの存在にあえてフォーカスしているのが佐藤さんの凄いところだと本気で思った。そんな佐藤さんはトタンの被写体としての魅力をこう話す。

「トタンと一言で言っても、さまざまなトタンがあります。新しいもの、古いもの、錆びて朽ちてるもの……。それぞれまったく違う表情をのぞかせています。また太陽の光でも違う色味に見えたりする。トタンにはその場所の歴史が刻まれているんですよ。トタンは朽ち方が目で見てわかりやすいので、写真に収めたときにも理解されやすいです。よくそんなに見つけることができるねと言われることがありますが、それこそちゃんと撮ろうと思って歩いていれば見つかるものですよ」

 佐藤さんの今回の作品に人は写っていない。けれど、どの写真からも人の気配を感じるのは、被写体の歴史や風土を意識して撮影しているからではないだろうか。だからこそ佐藤さんの作品は「紙」で見たいと思わせてくれる。

「やはり写真は成果物ですから、『紙』でプリントしたものを見るのがいいと思います。紙のほうが奥行き感を感じることができるはずです。また紙質によって作品の印象も変わるという楽しさもあります。会場での作品との距離感でも印象が変わります。だからこそ丁寧さが重要です。額装にしてもお化粧と同じ。よく見せるためには細かいところにも気を使わないといけません」

 そう話す佐藤さん。写真家として「表現者」のあり方をしっかりと感じることができる写真展だ。譲れない部分は頑固に押し通す。そんな男気を佐藤さんから感じた。3月下旬まで開催しているので、ぜひ足を運んでみてほしい。きっと自分の写真力を高めるヒントが隠されたいるはずだ。

■撮影・文/大貝篤史

来場者の方には、絵と間違う方がいるとか……それほど色使いと構図が独創的だ

■写真展情報■
佐藤倫子 写真展「creative snap」
THE GINZASPACE 3月1(月)~28日(日)
吉井画廊 3月1(月)~26日(金)
※それぞれ休館日などあり