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ポートレートを撮る 第二回

約 8 分

ポートレートを撮る 第二回

新型コロナウイルスの影響で写真の撮り方は変わるのか。それとも変わらないのか。
実際に現場で人物撮影を行っている写真家の田口るり子さんと福井麻衣子さんと本サイトの編集人でもある大貝篤史さんに「現場」はいまどうなのか、リアルな声を聞いた。

猛威を振るっている新型コロナウイルスの影響。今もなおその終息は難しく、これからは共に生きていくという選択を人類は行うことになるかもしれない。そんな中、写真の撮り方や関わり方に少なからず影響が出ている。その影響が大きいとされているのが、人物撮影だろう。新型コロナの影響とともに生まれた言葉「Social distance」。人との距離のとり方を表す言葉だが、ポートレート撮影において被写体との距離は、その写真の意味にも直結してくるだろう重要なポイントになる。
なにも商業写真を撮るカメラマンだけの問題ではない。個人撮影でも人と関わる以上は共通の課題。実際の現場ではどう対応しているのか。2人の写真家と本サイトの編集人である大貝さんに話を聞いた。

田口るり子さんの場合

田口るり子さんは6月末あたりから人物撮影の仕事が再開し始めたという。その時の雰囲気についてこう語る。

「まだまだ手探りの状態で、どこまで対応すればいいのかなど正直迷うところがありました。ただ新型コロナウイルスの影響で人物をかなりの期間撮れなかったので、『撮りたい』といいう強い気持ちが私自身も持ちましたし、クルーからも感じました。当初は誓約書のようなものを書かされたりするのかと思いましたが、私の場合にはガチガチの広告写真ではなかったので、そこまではされませんでした。ただ、マスク着用とアルコール消毒はしっかりやりましょうという打ち合わせがある程度です。私自身も自分ができる対策を講じて撮影に臨んでいました。

私たちはあくまでも依頼を受けて撮影しています。ということは、ほかにゴーサインを出す人がいるわけです。例えば現場のディレクターだったり、クライアントだったり……。そういう人たちは大変そうでしたね……。これをすれば安心というような明確な指針がどこからか出ているわけではないので、試行錯誤しながらの対応になっていました」

そう話す田口さん。やはり感染症を意識した対策は少なからず行われている。それでも現場の雰囲気は悪くはなかったと話す。

「私自身もそうでしたが、それなりにテンション高く撮影していました(笑)。せっかく多少のリスクを背負いながらでも行っている撮影だからこそ、いい写真を撮りたい。そういう思いは、意識をせずにいつも通りの撮影を行うことには重要でしたね。実際撮影が始まれば、感染対策を行っていること以外は変化がありません。
唯一変わったのは、レンズ選びと声かけですね。私は仕事でも短焦点レンズを多用していましたが、撮影が新型コロナウイルス対策をしながらなので、もたつくことが多々ありました。その際にレンズ交換をしている時間や手間を省きたいと感じることもあり、24-70mmのズームレンズを最近では使用しています。それと、より声掛けを行うことが増えましたね。モデルや被写体に触れることが難しいこともあり、その分、口頭で説明することが増えました。ボキャブラリーが大事ですね(笑)」

と話してくれた。田口さんの場合は今まで付き合いがある人からの依頼が多かったということが大きいという。 「新型コロナウイルスの影響が出る前から仕事を受けたことがあるクライアントからしかまだ依頼がないので、逆に安心ですね。お互いに仕事のやり方がわかっているので、現場でも『気を付けること』ができます。信頼のおける人からの依頼は、今の私には非常にありがたいです。聞いた話ですが、カメラマンによってはやはり新型コロナウイルスの感染が怖いので、依頼を断る方もいるそうです。確かに新規の案件が多いカメラマンのほうが神経を使っているかもしれません」

福井麻衣子さんの場合

日ごろから広告写真や雑誌の表紙などで著名人を撮影することの多い福井さんの場合にはどうなのだろうか。

「やはり新型コロナウイルスが蔓延した後では、撮影での対応が変わりました。表紙撮影などで著名人の撮影を行う際には、マスク着用や検温、消毒は必ずやります。場合によってはフェイスガードをつけての撮影もありましたね。田口さん同様に誓約書のようなものを記載することは少ないですが、まったくないということもなく、厳しい撮影現場では一筆…ということもあります。また大変そうだと感じたのは『ヘアメイク』ですね。必ずフェイスシールドをしていますし、化粧品も肌に触れるものですので、被写体ご本人の私物を使わなければならないこともあります。使い慣れた自分の仕事道具が使えないことは大変ですよね。カメラマン以外のクルーのほうが、より制限されているケースが多いように感じました。さらにスタジオに関しても『換気ができる場所』というようなクライアントなどからのオーダーがあるケースが多く、場所探しも大変そうです。ただ、現場の一体感は高まります。著名人の方も含めて、いらいらする人などもおらず、むしろ協力的な現場がほとんどですね」

やはり現場では徹底した感染症対策が行われているようだ。機材面での変化についてはどうなのだろうか。

「一番影響が出ているのは著名人の集合写真です。今までなら『はい、集合写真撮ります!』とみんなで揃って撮影することができましたが、今はソーシャルディスタンスを保つ必要があるため、個別で撮影したあとで合成することもあります。これはこれで一手間増えるわけです。なので、処理スピードが速いパソコン環境に変えたりすることで対応しました。最終的に、デザイナーさんやレタッチャーさんが仕上げる場合でも、一から一枚の写真を作り上げる必要があるので、ある程度は自分で組んで、どのような写真にしたかったのか伝わるよう最終のバランスのチェックをしています。また、カメラの台数も複数台セッティングして、現場で使いまわすことが増えましたね。少しでも時短したいのでカメラマンはカメラマンなりの工夫が必要になりました。おかげで余計な出費が……(笑)」

大貝篤史さんの場合

積極的に作品撮りとして人物撮影を行っている本サイトの大貝さん。新型コロナウイルス蔓延後に芸能事務所からの依頼で俳優さんの宣材写真撮影を頼まれたという。その際の対応についてこう話す。

「依頼自体は新型コロナウイルスの影響が出始めたときにいただいていました。しかし『今はやるべきではない』という判断で中止しタイミングを見ていました。ようやく自粛解除になったことで、急ぎ撮影をしてほしいとのことで撮影を行ったのですが、まだまだ情報が少ない中での撮影で正直不安はありました。まさに五里霧中で、できる限りのことはやっておこうと。

依頼内容は、ホリゾンでのオーソドックスな宣材撮影と野外でのイメージカット撮影。スタジオは都内の空調施設がしっかりしているスタジオを事務所のマネージャーが探してくれてあったのでそこで撮影しました。野外での撮影時には、どこかを触るたびに俳優さんには除菌液(エタノール溶液)で消毒しながらの撮影を徹底。僕自身もこまめに消毒し、場合によっては機材などもその都度拭いてしました。なので、いつも通りのフレキシブルな撮影とはいきませんでしたね。ただ、それを想定してロケ地を選定。コンパクトだけど、バリエーションはたくさん撮れそうな場所を提案しました。感染症対策で『もたつく』のであれば、それを想定した撮影場所と撮影スタイルを選べばいいわけですね。無論、室内でも屋外でも僕はマスク着用です(笑)。おかげでハーハー言っているやばい人になっていまい、それをみんなで笑いながら撮影していました。やはり大変そうだったのは、ヘアメイクですね。かなり気を使ってメイクをしていましたし、俳優さんに直接触る機会がもっとも多いわけで、そのあたりの配慮が徹底されていました。

レンズに関しては、中望遠(85㍉もしくは135㍉)や70-200mmなどの望遠ズームレンズを使うケースが増えました。普段は35㍉か50㍉を選ぶのですが、あまり接近して撮影することは憚られたので、レンズ選びが少し変わりましたよ。ちなみに普段なら70-200㍉のレンズは滅多に使わないので、少し新鮮でした(笑)」

現場から学べること

新型コロナウイルス蔓延後の対策は現場によってまちまちであることがわかる。広告写真なのか、個人撮影なのか、著名人撮影なのかなど依頼される内容によって大きく異なっている。通常、人物撮影の場合にはたくさんの人が関わっている。だからこそ現場の助け合いや意識の高さが必要になるのかもしれない。

そして撮影をしっかりと「楽しむ」ことだ。好きなことや楽しいことだからこそ続けたい。続けていくための「対策」が必要なのだ。これは何もプロに限ったことではない。モデル撮影会やポートレートセミナーなどに参加する人や友人などの身近な人との撮影でもいえることだ。ひとりひとりが新型コロナウイルスとしっかりと向き合い、その予防を行うことが結果的に自分たちの好きなことを続けていく近道だ。そして最後に忘れてほしくないのは、マスクをつけたりできないモデルや被写体が一番怖いということ。だからこその対策である。そのヒントはこの3人の体験談から見出してくれたら幸いだ。


この記事からわかったこと

●マスクは着用する

●消毒はこまめに

●被写体やモデルにはなるべく触れない

●適度な距離感を撮って撮影する

●換気がいい場所を探す必要があるので、野外撮影は有効しれない

その結果

●ズームレンズの多様など機材選びも変わる可能性が……

●複数台のカメラが必要になることも……

●感染症対策グッズは必須で持ち込む


次回予告

次回は写真家の●●●●さんを招いて、ポートレートの「愛」について語る予定です! 来てくれるかな…笑

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