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ポートレートにおける日常的写真の考え方

約7分
X100Vポートレート

2023年もそろそろ終わりになりますね。皆さんにとってはどんな一年だったでしょうか。社会人の三大休暇と言われている一つでもある「年末年始休暇」。そんな休暇を満喫するために、親しい友人や家族と旅行に行くヒトも多いはず。そんな中、いつものようにガッツリと撮影するわけではないけど、日常を少しドラマティックに撮影したいと思うヒトにおすすめなのが小型カメラとフィルターだ。

複数人での旅行や帰省の場合には、どうしても荷物が多くなる。そう、カメラのプライオリティは実はそれほど高くないこともある。カメラは忘れてもスマホは忘れない……という世の中だ。そんな中、レンズを交換しないと割り切ることで、小型なカメラを一台だけ持っていくのは非常に効率的だ。さらにそこに「スパイス」のように味付けをするのが、フィルターだ。富士フイルムのXシリーズにはフィルムシミュレーションという独自のカラーモードが存在する。他社との違いは明らかで、その調整枠の広さ、カラープロファイルの多さが20、30代を中心に人気だ。XシリーズのコンパクトデジタルカメラにはX100Vというモデルがある。今回はこのカメラを使った。他にも人気なのがRICOHのGRIIIシリーズだ。無骨なデザインの割には、女性中心に人気が高く、俳優やモデルが使用していることから、SNS系インフルエンサーにも人気のモデルだ。小型かつ軽量なカメラは日常を切り抜くのには、もってこいのカメラだ。

若い世代に限らず、クラシックなデザインのカメラはどこか撮影する意欲を高めてくれる

最低限の機材を選ぶ

フィルターに関してはケンコー・トキナの「ブラックミストNo.05」をチョイス。今回は夜間での撮影になることが事前にわかっていたので、点光源ににじみが出やすいフィルターをチョイス。そのフィルターの効果がわかりやすい。その他にも個性的なフィルターにマルミの「パンチフィルター」がある。このフィルターは敢えて写真全体を滲ませる効果があり、光学性能が抜群の現代レンズで撮影した写真にロマンを感じられなくなったなら、このフィルターを装着することで、ロマンを感じることができるはずだ(笑)。どちらのフィルターもX100Vとの相性はいい。特にフィルムシミュレーション「クラシックネガ」との相性は抜群だった。少しエモーショナルな写真を手軽に撮りたいヒトには本当におすすめできる。

X100Vポートレート

富士フイルム X100V + ブラックミストNo.05 1/60秒・f2・ISO2500

X100Vポートレート

ケンコー・トキナの「ブラックミスト No.05」は点光源に対するにじみが顕著にでるため、ドラマティックな演出に向いている

マルミからは「パンチシリーズ」がリリースされている。アルプスパンチとなついろパンチの2種類があり、好みに合わせて使い分けるのがいいだろう

現場の空気感をいかに自分に引き寄せるか

ポートレート撮影で実践してみた。日常感を感じるような写真を撮る上で、重要なのは「無意識ながらもそこに必然性があること」だ。撮りますよーという気持ちで構えながら撮影すると、どうしてもモデルはポージングを意識してしまい、なかなか自然なしぐさやそれに近いイメージになりづらい。かといってあまりにもカメラを無視した行動を採られてしまうと、漫然とした写真になってしまい、観たヒトに写真本来の意図を伝えることができない。なので、筆者が大事にしていることは現場の「空気感」だ。わかりやすく言うと、「間」を大事にして撮影することだ。

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富士フイルム X100V + ブラックミストNo.05 1/110秒・f2・ISO1600



モデルと何時間か空間を一緒にするわけだが、その間ずっとシャッターを切っているわけではない。その合間が重要で、いかにその間にコミュニケーションを取るのかが全体の流れの良さにつながってくる。仕事で撮影する場合は、シーンや時間が決まっているし、クオリティーもある程度担保しなくてはいけない。だから、それなりのカメラやレンズ、機材を投入して撮影する。しかし、日常感を演出するような撮影ならX100Vのような小さくて可愛らしいカメラで撮ることでモデルもリラックスすることができる。「カメラは性能」という考え方が間違っているわけではないが、今回のテーマのような「日常感」を意識した撮影を行いたいなら、多少性能を犠牲にしても上記のようなカメラを選ぶといい。

X100Vポートレート

富士フイルム X100V + ブラックミストNo.05 1/15秒・f2・ISO3200

X100Vポートレート

富士フイルム X100V + ブラックミストNo.05 1/27秒・f2・ISO3200

X100Vポートレート

富士フイルム X100V + ブラックミストNo.05 1/60秒・f2・ISO3200・内蔵ストロボ使用

そしてプラスアルファで逃げ道を

さらにちょっとしたスパイスの話。そのまま撮影してもいいのだが、どこか温かみのある写真を想像すると、フィルム調の写真をイメージする。少しラフなぐらいのほうがいいときもあるのだ。その曖昧さやラフさを演出してくれるのが、各社のフォトスタイル機能や、フィルター効果だ。あえて、写真に「逃げ道」を用意してあげることで、観ているヒトにも少し余裕が出てくる。その余裕こそ日常的な写真に仕上げてくれるのだ。 筆者も軟調な写真は好きで、作品の方向性によっては多用している。もちろん、切れのある繊細な写真は重要だし、見応えがある。そういう写真の良さは少しメッセージ性の強い作品撮りやアートなイメージで撮影したい場合にはいい。日常感のある写真を撮る場合には、前後にどこかストーリーのようなものがあると撮りやすい。観ているヒトも楽しいし、1枚の写真で終わらせず、数枚の写真で完成するようなイメージは、撮影の意欲を高めてくれるだろう。そのためにも、ある程度のロケハンやイメージ作り、モデルとの意識の共有は必要だが、後は「流れ」で任せるのもいい。無計画であることと、その場の空気感やモデルとの関係性を考慮して臨機応変に変化させていくことは、明らかに違う。

X100Vポートレート

富士フイルム X100V + ブラックミストNo.05 1/7.5秒・f2・ISO3200

X100Vポートレート

富士フイルム X100V + ブラックミストNo.05 1/2.3秒・f2・ISO3200

「セオリー」は確かに重要なことだ。カメラの使い方や撮影技法をしっかりと頭にたたき込んで、その知識と技術をふんだんに駆使して撮影する……。しかし、そういう撮影を日頃からしているヒトには、今回のような日常的写真を撮ることをおすすめしたい。心の「余白」を持ちながら撮影することで、新しい発見や現状の技術のさらなる深化ができるかもしれない。筆者は仕事で撮る撮影とこういった作品撮り的な要素の強い撮影をおこなうことで、写真に対する考え方が変わったり、新しいアイデアが浮かんだりする。ふと思えば、結局仕事だけではなく、日頃から「写真を撮る」ことで、絶えず新しい自分と向き合えているのかもしれない。そう、日常的写真は奥が深いのだ。

X100Vポートレート

富士フイルム X100V + ブラックミストNo.05 1/60秒・f2・ISO3200・内蔵ストロボ使用

X100Vポートレート

富士フイルム X100V + ブラックミストNo.05 1/5.3秒・f2・ISO3200

文・撮影/編集部 モデル/加藤みゆ @miyumiyu612

■富士フイルム X100V
https://fujifilm-x.com/ja-jp/products/cameras/x100v/
■ケンコートキナ ブラックミストNo.05
https://www.kenko-tokina.co.jp/lp/black-mist-no5/

https://orphotograph.com/2023/10/09/voigtlander-nokton-d35mm-f1-2-shooting-report