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Voigtlander NOKTON D35mm F1.2 SHOOTING REPORT

約6分

コシナからリリースされているNOKTONブランドで、ニコンDX Zマウント対応のレンズ「NOKTON D35mm F1.2」が発売している。マニュアルフォーカスレンズで、開放値もf1.2とかなり明るい大口径単焦点レンズだ。フィルター系は46mmと比較的小径。重さも約230gと小型かつ軽量なレンズと言える。筐体の質感がよく、金属質で手に馴染む感じは所有欲を掻き立ててくれる。何よりもピントリングを回したときのトルク感が非常に心地いいので、使いながら思わず「ニヤリ」と笑ってしまうほどだ。このトルク感であれば、絞り開放時の微妙なピント合わせもやりやすくなる。Nikon Z fcの電子ビューファインダーは、比較的ピントの山がわかりやすいので、拡大表示機能を使わずに、ピントを合わせることができる。

絞りリングに関しても、適度なクリック感があるので、ノールックでの操作もしやすい。慣れるまでは絞りリングの位置が手前の方にあるため、操作がしにくかったが、これは慣れの問題であり、筆者も数時間使うことで慣れた。Nikon Z fcのヘリテージデザインにしっかりと馴染む筐体デザインで、まさに「Nikon Z fcのための1本」であるようにさえ感じる。

ボケ感をコントロールして楽しむ

ポートレート撮影時に感じたのは、Nikon Z fcのようなメカニカルシャッターが1/4000秒しか対応していないモデルでは、NDフィルターが必須のように思える。そこさえクリアーしてしまえば、開放値であるf1.2を積極的に使いながらの撮影が可能で、DXフォーマットながらも、フルサイズセンサーに負けないボケ感を味わえる。この手のレンズのイメージ通り、開放値で全体的にかなりあまい画になる。色収差もそれなりに大きく出るので、ソフトウエアでの修正が前提の使い方になるだろう。ボケ量は十分だが開放値では周辺にいくほど楕円形になるので、そのあたりは好みが分かれるだろう。

Nikon Z fc + Voigtlander NOKTON D35mm F1.2・1/1600秒・f1.4・ISO100(上)
Nikon Z fc + Voigtlander NOKTON D35mm F1.2・1/500秒・f2.2・ISO100(下)

f2ぐらいまで絞り込むことで、色収差はだいぶ落ち着いてくる。全体的にシャープになるが、周辺までシャープにするにはf6程度まで絞り必要がある。ただ、スナップや風景などでメインに使うのであれば、f4〜6ぐらいまでは絞り込むことが増えると思うので、十分に実用的なレンズだろう。

Nikon Z fc + Voigtlander NOKTON D35mm F1.2・1/2000秒・f2.2・ISO100(上)
Nikon Z fc + Voigtlander NOKTON D35mm F1.2・1/60秒・f8・ISO100(下)

表現力のあるレンズは使っていて楽しい

逆光耐性についてもオールドレンズのような雰囲気。開放値付近で使うと、フレア、ゴーストともにそれなりに出てくる。f2.8程度まで絞り込むと、フレアとゴーストの出現率は大きく落ちてくる。ポートレート撮影であれば、フレアもゴーストも「表現の一部」として積極的に使っていきたい人もいるだろう。そういう人には、ぜひ手に入れてほしいレンズだ。絞り羽に関しても12枚と多く、しっかりと円を描ける枚数だ。玉ボケの形はとても美しい。多角形になることはなく、しっかりと円形をキープする。背景を積極的にぼかしたいポートレート撮影にはもってこいのレンズだと言える。最短撮影距離は、約0.3mとかなり寄ることができる。グッと被写体に寄れることで、さらなるボケ効果を得ることができるため、表現方法の引き出しが多いレンズだ。もちろん絞り込むことで、全域でシャープな画が撮れるし、近接時のピント面のシャープさも確保できる。ちなみに、電子接点があるのでEXIFデータにf値やレンズ名がしっかりと入る。

Nikon Z fc + Voigtlander NOKTON D35mm F1.2・1/4000秒・f1.2・ISO100(上)
Nikon Z fc + Voigtlander NOKTON D35mm F1.2・1/4000秒・f1.2・ISO100(中)
Nikon Z fc + Voigtlander NOKTON D35mm F1.2・1/100秒・f7.1・ISO100(下)

レンズが撮りたい写真を教えてくれる

NOKTON D35mm F1.2は、自分の意志をしっかりと持って使用したいレンズだ。表現力が高いレンズなので、レンズに振り回されないようにしたい。「このレンズならこういう画を撮りたい」というイメージを持つことで、バリエーションの富んだ作品づくりが可能になるだろう。ポートレート撮影時に思ったのは、ついつい開放値f1.2で撮影したくなるが、かなりあまい画になるので、f1.4程度まで絞り込むと、ボケと解像感のバランスのいい写真が撮れる。シャープネスが低くてもいいならf1.2、ある程度のボケ感と解像感を両立させたいならf1.8〜2.0で撮影するのが筆者的には良かった。ピント面の解像感を得たいなら、カメラの「拡大表示機能」をフルに使うことで、とろけるようなボケの階調感を感じる写真が撮れる。

表現の幅を広げたいと思っても、なかなか広がらない人もいるだろう。そういうときのために「癖玉の単焦点レンズ」は1本持っているといい。自身の撮影テクニックを上げてくれるヒントになるかもしれない

これから写真を始めたいビギナーにおすすめのレンズでもある。AF搭載レンズが多い現代レンズだが、使いこなすスキルをある程度要求するNOKTON D35mm F1.2をあえて使うことで、レンズのいろはを勉強できることは間違いない。こういうレンズはどの時代でもなくなってほしくないものだ。

文・撮影/大貝篤史 モデル/加藤みゆ

□製品情報□
Nikon Z fc  https://www.nikon-image.com/products/mirrorless/lineup/z_fc/
NOKTON D35mm F1.2  https://www.cosina.co.jp/voigtlander/z-mount/nokton-d35mm-f1-2/