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Nikon Z f SHOOTING REPORT

約9分

2021年に発売したDXフォーマットのヘリテージデザインミラーレスカメラ「Nikon Z fc」。ニコンのクラシカルカメラを彷彿させるデザインは、カメラファンに衝撃を与えた。筆者もそのひとりで、Z fcに関しては後から追加された「ブラックエディション」も購入するほどだ。デザインもさることながら、その操作性に関しても非常に使いやすく、物理ボタンやダイヤルの豊富さは、直感的な操作感に直結するのだ。 決して「時代遅れのアナログおじさん」だからではない。20代の若者でも十分にその操作性の良さは感じたはずだ。

重要視されるプロダクトとしてのデザイン

当時からフルサイズセンサー搭載のZ fcが出てほしいという声が多く、ついにその声に応える形で発表したのが2023年9月下旬に発表された「Nikon Z f」だ。Z fc同様にヘリテージデザインを採用。Nikon Z fcを一回り大きくしたイメージだ。個人的にはフルサイズ一眼レフカメラ「Df」のイメージにもっと寄せてくるのかと思ったが、定評のあるZ fcのデザインを採用している。操作性に関しては、Z fc同様に軍幹部には、ISOダイヤル、シャッタースピードダイヤル、露出補正ダイヤルが配置。直感的な操作ができ、写真を撮ることの楽しさを感じることができる。Nikon Z fでこだわったのは、このダイヤル素材。真鍮を使用することで指先の感触、さらにクリック感が向上している。使い込むことで真鍮ならではの「味」が出てくるので、それも楽しめる。さらにF値を表示するための液晶ゲージがあったり、動画撮影と写真撮影を変えるレバーがある。このレバーに、瞬時にモノクロ写真撮影に切り替えることができるモードが追加。より「アナログ的撮影」の雰囲気を楽しんでほしいというメーカーの意図が見て取れる。実際に今回の撮影でもモノクロで撮りたいシーンに出くわしたが、このレバーのおかげで瞬時に撮影ができた。思ったらすぐに切り替えることができ、撮りたいイメージをスポイルさせないので、テンポのいい撮影を維持できる。デジタルカメラだからといって、便利になっても、撮る側の感情を「上げてくれない」カメラではつまらない。

カメラとしてのポテンシャルが高い

その「見た目」とは異なり、中身は最新だ。ニコンの上位モデルであるZ 9およびZ 8と同様の画像処理エンジン「EXPEED 7」を搭載することで、最新のデジタルカメラらしい高性能な撮影体験が可能だ。センサーは有効画素数約2450万画素のフルサイズセンサーを搭載。FXフォーマットを採用しているため、Nikon Zシリーズ用のレンズの性能をフルに体験できる。さらにボディー内5軸手ブレ補正機構が搭載され、最大で約8段分の手ブレを抑制することが可能。ちなみにNikon Z fcには、ボディー内手ブレ補正機構を搭載されていなかったので、ここも大きな違いだ。

ファインダーは約369万画素のEVF(電子ビューファインダー)となっており、見え方は非常に良好。拡大表示をしなくてもピントの「山」がわかりやすい。このあたりはZ 6を購入したときにも感じたのだが、さすが「老舗のカメラメーカー」ならではの、こだわりだ。今はやりのオールドレンズを装着しての撮影時でも、非常にピントがつかみやすく、撮影意欲を高めてくれる。EVFの表示遅延に関してもそれほど気になることはない。センサー位置に配置されているので、撮影時の違和感はなく「THE CAMERA」という雰囲気だ。
背面液晶モニターに関してはバリアングル方式の3.2型タッチパネルを使用。ハイアングルやローアングルで撮影するときには、液晶を左サイドに出し可変させる仕様だ。
また、Z fは動画機能も充実。10bitの4:2:2のN-log撮影ができ、カラーグレーディング耐性も高い。動画撮影においては、バリアングル液晶は重宝するだろう。

撮り方が変わるAF性能の多様性

AF性能に関しては、まずまずの性能だ。任意でのAFポイントを選択しての撮影においては、AF-SおよびAF-Cでの撮影において、合焦速度も精度も必要十分。小気味の良い撮影ができる。ただ、被写体認識AFで「人」を選択して撮影したが、低照度・暗部のシーンやコントラストが立ちづらい「逆光」では、しばしば合いづらいことがあった。ポートレート撮影では、このようなシーンで撮ることが多々あると思うので、今後はそのあたりをファームアップなどで進化することに期待したい。

Nikon Z f + NIKKOR Z 40mm f/2(SE)・1/8000秒・f2.0・ISO100(上)
Nikon Z f + NIKKOR Z 40mm f/2(SE)・1/6400秒・f2.0・ISO100(中)
Nikon Z f + NIKKOR Z 40mm f/2(SE)・1/1600秒・f2.0・ISO400(下)

それ以外のシーンや、自動認識AFを使用せず任意でのAFポイントにおける撮影環境では、かなり快適な合焦性能がある。特にAFが迷いやすい「縦の動き」の追従性は非常によく動き回るモデルにもしっかりと追従し続けた。状況に応じて、合いやすいモードを選ぶことで、快適なAF環境が整う。検出できる被写体は「人、犬、猫、鳥、車、バイク、自転車、列車、飛行機」の9種類だ。また被写体検出AFにおいてユニークだったのが「マニュアルレンズ」でも作動する点だ。マウントアダプターなどを噛ませてオールドレンズを使っていても、被写体をしっかり検出。さらにそのまま拡大機能が使える。これならかなり精度の高いピント合わせが可能になるだろう。

Nikon Z f + NIKKOR Z 40mm f/2(SE)・1/8000秒・f2.0・ISO200(上)
Nikon Z f + NIKKOR Z 40mm f/2(SE)・1/5000秒・f2.0・ISO100(下)

写真表現の裾野を広げてくれる

実際にポートレート撮影で使ってみたが、全体的には非常に使いやすく大きな問題は感じなかった。ピクチャーコントロールは「ピュア」を選択して撮影する機会が多かった。個人的な意見だが、これが一番しっくりきた。RAWデータの同時記録が可能なので、ピクチャーコントロールの効果を生かしたJPEGと同時に撮影することで、あとからPC上で現像処理することが可能だ。また「美肌効果」も少し効かせて撮影したが、不自然さのない美肌効果を得ることができた。このあたりは後からのレタッチ作業が少なくて済むのでありがたい。

Nikon Z f + NIKKOR Z 40mm f/2(SE)・1/8000秒・f2.0・ISO125・ピクチャーコントロール:ピュア(上)
Nikon Z f + NIKKOR Z 40mm f/2(SE)・1/6400秒・f2.0・ISO100・ピクチャーコントロール:ピュア(中)
Nikon Z f + NIKKOR Z 40mm f/2(SE)・1/2500秒・f2.0・ISO100・ピクチャーコントロール:ピュア(中)
Nikon Z f + NIKKOR Z 40mm f/2(SE)・1/6400秒・f2.0・ISO100・ピクチャーコントロール:ピュア(下)

人肌表現に関しては、ニコンらしい健康的なスキーントーンが素晴らしい。階調感に関しても十分で、陰影のグラデーションがしっかりと描かれており、その結果、立体感のあるポートレートが撮れる。新設されたモノクロ系のピクチャーコントロールも従来のモノクロ系より、研究してきたなと思う出来で、モノクロームな写真を好む人にも満足できるだろう。ただ、できれば「粒状」の有無を選べるようにしてくれるとより没入感が上がる。

Nikon Z f + NIKKOR Z 40mm f/2(SE)・1/2500秒・f4.0・ISO100・ピクチャーコントロール:フラットモノクローム(上)
Nikon Z f + NIKKOR Z 40mm f/2(SE)・1/3200秒・f5.0・ISO100・ピクチャーコントロール:フラットモノクローム(下)

夜間時の撮影では、最大ISO6400まであげて撮影するシーンが多かったが、少しノイズが多い印象を受けた。このあたりは作例を見て判断してほしいが、ISO3200まで落とすことでかなり改善する。ほぼ真っ暗な環境だったので、そのことを考慮すれば、十分に許容だ。

Nikon Z f + NIKKOR Z 40mm f/2(SE)・1/125秒・f2.0・ISO6400(上左)
Nikon Z f + NIKKOR Z 40mm f/2(SE)・1/125秒・f2.0・ISO6400(上右)
Nikon Z f + NIKKOR Z 40mm f/2(SE)・1/125秒・f2.0・ISO6400(上左)

1日撮影していて、気になったのが「グリップが浅い」ということだ。ヘリテージデザインを優先させているので、そのあたりはトレードだと思うが、長時間の撮影では指の力で持ち続けないといけないので、Z 6IIなどと比べると疲労感がある。長時間撮影をすることがある人は、純正グリップを一緒に購入することをおすすめしたい。

Nikon Z f + NIKKOR Z 40mm f/2(SE)・1/400秒・f6.3・ISO100

Nikon Z fはヘリテージデザインを採用しているが、中身は最新テクノロジーが凝縮されたミラーレスカメラだ。AF周りの使い勝手がよくなったことで、キレキレの高性能純正ニッコールレンズでも、往来のオールドレンズでも、このカメラに装着すれば、自分のイメージした1枚が撮影可能。「カメラは表現するためのツール」であるのだということを、再認識させてくれるカメラだろう。こういうカメラを世に送り出してくれるニコンというメーカーには恐れ入る。まさに夢を与えてくれるメーカーだ。固定概念に捕らわれることなく、今のニーズに対して正面から向き合う。どのメーカーにも足りないマインドがここにある。Nikon Z fは今後も売れ続ける息の長いベストセラーになるだろう。

※この記事は発売前の評価用ボディを元に作成しているため実際の製品の性能・機能とは異なることがあります

文・撮影/大貝篤史 モデル/TAMA

■製品情報■ Nikon Z f https://www.nikon-image.com/products/mirrorless/lineup/z_f/