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長野県小諸市で魚住誠一さんがポートレートイベントを開催

約10分

長野県の北東エリアにある小諸市。自然豊かなこの街でポートレート写真家の魚住誠一さんはこもろ観光局が運営する「こもろでポートレイト」という活動に尽力している。 このイベントは、2023年4月から開催されており、今回は3回目のイベントとなる。数々の著名人の撮影を行うポートレート写真家の魚住誠一さんが講師を務め、小諸市の自然や歴史的価値の高い建造物など様々な場所でポートレート撮影を行えるというものだ。撮影後には、月刊デジタルファクトリーの宮本和英さんも加わり、カメラマンとしての講評と編集者目線での講評を自分の写真を見せながら聞くことができる貴重なイベントだ。参加者の写真は、月刊デジタルファクトリーの宮本さんの手で「作品化」され、Web写真集として掲載される。今回は2023年11月3日に開催された「こもろでポートレイト2023」に密着した。

ロケーションのいい場所でのポートレート撮影

イベント当日は快晴で、とても気持ちのいい日和。野外のポートレート撮影にはもってこいの天候となった。小諸市に滞在したのは初めてのことだったが、非常に気持ちのいい街並みで、どこか安心感を感じる街だ。歩いてまわれる範囲に観光名所が多く、コンパクトにまとまった感じがさらにいい。集合場所となった小諸市民交流センターも非常に綺麗でびっくりした。定刻になると全体ミーティングがスタート。今回の講師であるポートレート写真家の魚住誠一さんと月刊デジタルファクトリーの宮本和英さんが登場。企画趣旨や撮影時の注意事項など細かく説明してくれた。

沢山の参加者が集まり、挨拶をする写真家の魚住誠一さんと編集者の宮本和英さん

宮本さんいわく「写真人口はまだまだ増えていますが、デジタルカメラの普及で撮影後はSNSなどの投稿だけで終わってしまっている傾向が強いですね。そこに少し危機感を感じています。写真はやはり『カタチ』にすることが重要だと思っています。そのためにもポートレート写真をきちんと『作品』として完成させる喜びを感じてほしいです。作品化するとなると難しい部分もあります。ですが、そういう経験が必ず写真テクニックの上達に繋がっていくのだと思っています」

そう熱く語ってくれた宮本さん。編集者として「写真」に関わっているからこその意見だ。筆者も同じ思いを抱いている。デジタルが中心になってしまうと、写真はどこか「成果物」としての体をなしていない……そんな印象を受ける機会が増えている。宮本さんは、写真の価値を正しく認識してほしいという思いから、このイベントに関わっているのだ。「写真は撮っただけでは、まだ半分!作品化して完成です。ただ撮っただけで終わらせない」というこのポートレートイベントに面白さを感じた。今回のモデルは2名で、都志見久美子さんと脇田穂乃香さんだ。都志見さんは公開中の映画「生きない」に俳優として参加している演技派だ。脇田さんはガールズバンド「たけやま3.5」にドラム担当として参加。ミュージシャンとしての一面もある。個性的な2名のモデルをどう撮るのか、とても興味深い撮影になりそうだ。

今回のモデルを務める脇田穂乃香さん(左)と都志見久美子さん(右)。とても気さくなふたりに参加者もホッとしただろう

教わるのではなく、自身のイメージを大事にしてほしい

前半は、市内になる「北国街道ほんまち町屋館」にて古民家撮影を行った。この施設は大正12年に建てられた味噌屋をそのまま利用。今ではギャラリーと工房として一般に公開されている。趣のある建物はどこか懐かしく、ここだけ時間がゆっくり流れているかのような雰囲気だ。古い日本家屋としては、非常に天井が高く、圧迫感などはまったくない。ポートレート撮影を行うのには適した環境だった。奥に入ると中庭もあり、そこから見る山々は本当に癒やされる。撮影タイムは2班に分かれて実施。思い思いに2名のモデルを撮影していた。忙しなく動きまわり、参加者に指導する講師の魚住さん。参加者にポートレート撮影において、どういうところを、気をつけていくといいのかを細かく教えていた。

講師の魚住さんは、「ポートレート撮影は習字のような習い事と違って、先生がこう書きなさいという通りにして撮るものではないと思っています。モデルさんを自分自身が見て、どう感じるのか、どこが素敵なのかなどをしっかりと見据えて撮影するのがいいのだと思います。光の読み方とか、シャッタースピード、露出などはこちらからスッと手を差し伸べて教えてあげたいですね。今回も少し夏の日差しのような日ですが、この空間のおかげで、やんわりした優しい光が回っています。こういう状況での撮影は、都内ではできないので、ここでしか味わえない光だと思います。長い歴史の中で宿場町として栄えた小諸市だからこそ、しっかりとした建造物や街並みがいまでも残っていて、現代においてこういう形で楽しめるのは最高ですね」と話してくれた。

地元のローカルテレビの取材を受ける魚住さん。このイベントへの熱い想いを語ってくれた

小諸市の力強いバックアップがいい

そこから小諸市内を散策。昔ながらのレトロな街並みは、どこかタイムスリップしたかのような不思議な錯覚にとらわれる。これこそが小諸市の魅力のひとつだろう。路地には、様々なお店が並んでいる。リノベーションされたおしゃれなお店から、昭和の時代から引き継がれ、空気感をしっかりと守っているお店。どれもフォトジェニックで、ついついシャッターを切りたくなる。参加者も路地のいたるところで、モデルを立たせ、作品づくりに没頭していた。こういう光景を見ると懐かしくもほっとする。殺伐とした時代だからこそ、皆が一つの目標に向かって何かを打ち込む姿は美しい。 このような自由な撮影を可能にしているのは、こもろ観光局と小諸市役所の全面バックアップがあるからだ。

「この企画を始めたきっかけは、ボクが魚住さんのポートレートセミナーに参加したことがあり、そこからの縁です。ボク自身も写真やカメラが好きなので、こうやって参加しています。大好きなこの街の魅力を多くの人に知ってもらいたいし、こういう活動を通して、たくさんの観光客や写真好きの人に来てほしいという思いでいっぱいです。まだまだ色々と試行錯誤しながらのイベントだろうし、いいところ、改善しないといけないところなど課題はあります。でも、皆さんと一緒により良いイベントにしていってほしいと思っています」 そう話してくれたのは、普段は小諸市役所で働く、こも写部の塩川さん

地元に愛されるイベントにしていくというのは、本当に大変なことだ。筆者もいろいろな自治体の写真系イベントの取り組みに参加、取材などを行ったことがあるが、地元の人たちに愛されるイベントにしていくには、並々ならぬ努力が必要になる。地元の方々に理解してもらい、そして協力してもらいながら大きなイベントにしていき、その結果を「行政」として示していく必要があるからだ。だからこそ撮影マナーには気をつけているのだと思った。当日も複数名の市職員やボランティアの方々がイベントをサポート。交通整理から人員誘導など細かいところに気を使いながら、進行していた。こういった人たちの「縁の下の力持ち」があってのイベント開催であることを忘れてはいけない。

当日の指揮取りをしながらも、自身でカメラを構える塩川さん。熱心にファインダーをのぞいていた

歴史とゆかりのある場所で撮影できる贅沢

昼食休憩を挟んで、午後には小諸城跡地を整備してできた「懐古園」での撮影だ。この懐古園は、明治4年(1871年)の廃藩置県で廃城となった小諸城を小諸藩の元藩士によって買い戻され、地元のシンボルとして親しみを感じてほしいと公園化し、市民に公開している。城跡としての景観が素晴らしく、「日本100名選」「日本さくら名所100選」「日本の歴史公園100選」などに選ばれるほどだ。実際に訪れたのは始めてだが、趣がありながらもどこか荘厳な雰囲気を感じる場所だ。イベント当日は紅葉が非常に美しく、多くの観光客が訪れていた。紅葉が美しかったこともあり、ここではモデルと紅葉を絡めた撮影が行われた。非常に広大な敷地だったが、撮影しやすい場所をきちんと示してもらえるので、スムーズに撮影ができる。施設内では3箇所ほどで撮影を行ったので、限られた時間の中での撮影であることを考えると、十分な内容だ。

講師の魚住さんが側にいるので、いつでも疑問点が聞けるのがいい

参加者は自主的に撮影を実施。初心者からセミプロ級の人までさまざまなスキルの人が参加していた

モデルのふたりもとても明るく気さくなので、参加者もポージングのお願いをしやすかったのではないだろうか

価値のある講評があり撮りっぱなしで終わらない

撮影が終わると、いよいよ公開講評だ。参加者は、今回撮影した写真の中から1枚を選び、講評の場に挑む。レタッチをした人やそのままJPEG撮って出しで勝負する人など、それぞれいて面白い。人前で自分の写真を見せるのは、本当に緊張する。SNS時代なので、特定の人前で見せる機会が少ないのでなおさらだ。しかし、ここで得る経験は非常に重要で、自分の写真を見えてもらう、そして誰からの写真を見るということが、いかに大切かを感じ取ることができるだろう。魚住さんと宮本さんは、次々に写される写真を見て的確なアドバイスを行っている。こういう有識者に自分の写真を見てもらえる機会はそれほどないので、まさに至高の時間だ。

当初1時間程度だったはずの講評タイムだったが、約2時間程度となった。参加者の作品があまりにもいいため、講評する2人の話が長かったからだろう…(笑)。

講評場所まで移動する面々。移動中も和気あいあいとしており、笑顔がたえない

講評を待つ参加者たち。ドキドキの瞬間である

宮本さんと魚住さんの的確なアドバイスは何よりも宝物だ。撮影へのモチベーションがあがる

講評にはモデルを務めた2人も参加。それぞれ写り手としての感想を述べていた。モデル目線の話が聞けるのも貴重だ

全体を振り返ってみて、非常に内容の濃い1日だった。小諸市の方々のバックアップがあるおかげで、マナーとルールさえきちんと守れば自由に撮ることができる。自由に撮れるということは、その分想像力が膨らみ、写真のクオリティーが上がることを意味する。自分の撮りたいイメージをしっかりと持てれば、このイベントに参加するメリットはかなり大きい。何よりも、カメラマン目線、写真を扱う編集者目線での講評(アドバイス)をもらえるのは、嬉しい。

そしてもう一つのメリットとして、ポートレート撮影をしながら小諸市の観光名所がしっかりと回れることだ。ただ撮るのではなく、小諸市ならではの「情景ポートレート」を撮ることができ、「1度で2度おいしい」イベントだ。また筆者は取材陣のため昼食はお弁当を頂いたが、参加者は地産のものを使った料理を食べることができる。小諸市の魅力を視覚的にも味覚的にも楽しめるのだ。初めてこの街に足を踏み入れた筆者もこの一日でとても好きになり、プライベートで後日行きたいと思うほどだ。

懐古園はポートレートだけではなく、風景写真などを撮るにも最高のシチュエーションだった。取材の一コマにて

いつも元気いっぱいの都志見久美子さん。取材中に脇撮りした一枚。透明感がすてきでした

そして、次回の「こもろでポートレイト2024」の開催が決定しているという。時期は2024年の2月を想定しているとのことで、詳細が出次第、orphotographでも告知したいと思う。

文・撮影/編集部 協力/こもろ観光局、こも写部、月刊デジタルファクトリー

写真家・魚住誠一さんが撮影した「こもろポートレイト」での一コマ

■こもろ観光局 https://www.komoro-tour.jp/blog/id_13082/
■月刊デジタルファクトリー https://digital-gekkan.jp/page/index/pageid/4/index.html

長野県小諸市で魚住誠一さんがポートレートイベントを開催
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