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LEICA M8という特別な存在

約5分

「表現することにおいて必ずしも最先端である必要はない」

HITORIGOTO vol.01

2024年も始まりフィルムカメラからデジタルカメラに置き換わってそこそこの年月が過ぎている。その間に、技術の進歩は進み、より解像感があり、より高感度にも強く、よりAFの精度がアップしたカメラがたくさん世に出ている。これは非常に喜ばしいことで、ビギナーからプロユースまで、どんなシーンでも活躍できるカメラになっているわけだ。使い手を選ばず、シーンも選ばない……。そんな夢のようなカメラが続々と発売している。
そんなカメラの進歩に人間の想像力や創作意欲が追いついていくのか。そんな不安を抱いたことがある。20代の若い世代ならそんなことはないのかもしれないが、40〜50代の「イケオジ」世代にはいささか「おなかいっぱい」状態が続いている。
より使いやすくしていくことで、撮れる世界は広がるが、どこか「特別な瞬間」であることが薄れていく。そんな錯覚にかられるようになった。

自分の表現したい世界を画けるカメラ

仕事でカメラを握る時には、高性能な最新カメラは必携だし、ワークフローを効率良く進めることができ、現代のミラーレスカメラは最適なカメラだと言い切ってもいい。筆者が使っているPanasonicのLUMIX S5IIは、サイズ感、レスポンス、色性能、AF性能などなんら申し分のないカメラだ。このカメラで撮れないものは自分の中ではないし、これからもそれほど増えていかないだろう。 ただ、作品を作り込むとなると、どこかその高性能なカメラだがゆえに、スポイルされてしまっていることがある。すべてのシーンでLUMIX S5IIのような最新カメラを使って作品を撮りたいとは思えないのだ。そこから試行錯誤が始まる。ここ数ヶ月悩みに悩んだ結論がLEICA M8を使うという選択だった。

このサイトの読者にはLEICA M8がわからないヒトがいるだろう。LEICA M8とは「デジタルM型ライカ」になってからの初号機的立ち位置のカメラだ。2006年に発売。レンジファインダーカメラなので、ピント合わせは二重像合致式を採用している。その点では、現行のLEICA M11と一緒なのだが、LEICA M8の最大の特長は採用されたセンサー方式にある。現在はほとんどのモデルがCMOSセンサーを採用しているが、LEICA M8に関してはCCDセンサーを採用していた。CMOSセンサーよりも色表現に関しては定評があり、懐の深い色を描いてくれる。デメリットは、高感度耐性が低いということと、消費電力量が多いということで、時代の流れでライカもCMOSセンサーに置き換わることになるのだが、LEICA M9までは、CCDセンサーを採用している。ちなみにLEICA M8はライカM型で唯一1/8000秒のシャッター速度を採用している。LEICA M8.2になってからは、静音性の兼ね合いもあり、1/4000秒になっている。さらに、IRカットフィルターが薄いため、より自然の光をセンサーが受け止めることができ、独特な世界観を写し出すカメラだ。IRカットが少ないので、日中の屋外だと黒が少しくすみ、全体的にマゼンタかぶりを起こす。なので、レンズ側にIRカットフィルターを装着して使用することが多い。非常に手間がかかるカメラなのだ。ちなみにセンサーサイズはAPS-Hというこれまた特殊なサイズ感だった。

過去6年間で撮影したデータを見返していて「お!」と思う写真のほとんどがLEICA M8で撮られたものだった。どこか懐かしい雰囲気ながらも、ハマったときにはびっくりするような空気感を感じる写真を撮ることができる。約1000万画素と2400万画素が当たり前で、約6100万画素のモデルも多数リリースされている昨今のミラーレスカメラ事情を考えれば、画素数などは、スマホにも劣る。しかしLEICA M8で撮影した写真を見ていると「画素数=解像感」にはならないことが立証されている写真が多数あるのだ。

何よりも作品撮りで求めているのは「解像感」よりも「空気感」だ。空気感を演出するうえで、画素数が必要になることだってあるし、レンズによっても左右されることは承知している。誰にでも当てはまるわけではないが、LEICA M8にはセオリーを無視する何かがあるのだ。

不自由を楽しめるカメラは意欲が沸く

筆者にとっての特別なカメラはLEICA M8なんだということを気づくのに、かなりの年月がかかった。マニュアルフォーカスしかなく、ISO感度も640程度が限界で、連写などほぼできない……。そんな不自由なカメラで撮影することで「撮るとはどういうことなのか」という原点が見えてくる。余分な機能がないからシンプルにシャッターボタンを押すという行為に集中できる。そして、自分の意思で撮っているという感覚が芽生える。それこそが、クリエイティブを高めてくれる要素なのかもしれない。

もちろん、最新のカメラでそれができるヒトはLEICA M8のような古いカメラを使う必要がないだろう。それはそれでとても幸せなことだ。 結局、自分に合ったカメラをしっかりと見つけることが重要。それは現行のミラーレスカメラにあるヒトがいたり、ないヒトがいたりする。「これだ!」と思えるカメラに出会えるとどこかうれしい気持ちになる。ただ、LEICA M8のようなメーカーの修理受付がほぼ終了しているようなカメラの場合には、壊れないように機材をいたわることが必要だ。そういう意味で、メリットはあるがデメリットも多い。カメラ選びとは本当に難しいなと思う今日この頃なのだ。

文・撮影/大貝篤史 モデル/AYAME

■ライカ https://leica-camera.com/ja-JP

LEICA M8という特別な存在
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