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写真の今がわかるWeb情報マガジン

写真の「チカラ」#29 菊池哲男

約3分
雪煙り舞う厳冬の八方尾根

写真を撮ることが好きだから、今でも山に登る

ただただ写真を撮るのが好きなのだ。そして撮った写真を多くの人に見てもらいたい……。その気持ちがモチベーションとなり、今でも写真を続けられているのだろう。だからこそ一枚一枚の写真にメッセージを込めて世に送り出している。
願うことはただひとつ。普通に日常が営まれることだ。特段特別でもない朝がきて、そして日が暮れ夜が来る。そんな日常を撮ることができるということは、世界が平和である「証」だ。代わり映えしない明日がまた来れば、その中に小さな奇跡や感動するべき瞬間が入り混じっているはず。そういう小さい特別な瞬間を切り抜くことができれば、それで十分作品になりえるのだ。

ノーリスクなことなどない。それでも撮るのは共感してほしい想いがあるから

山の写真にはリスクの大小はあるにしても、「ノーリスク」な状況などありえない。そのリスクを覚悟した者だけが、山に入り写真を撮る。それだけのリスクを背負ってでも撮る価値があるのか……。写真を見ながら考えることがある。それでも撮り続けることを選んでいるのは、やっぱり山の写真が「好き」だからだ。だからこそ、この素晴らしい自然とありふれた日常の中で起きる小さな奇跡に共感してほしい。頂上までの道のりは険しく遠い。コツコツと積み上げて創り上げるしかない。そんな思いで山と向き合ってきたからこそ、僕の写真には魂が宿っている。そして、観に来てくれた人の人生に少しでも影響を与えることができれば、リスクを背負ってでも撮る価値が僕の写真にはあるのだと実感できる。


菊池 哲男 きくち・てつお

東京都出身。立教大学理学部物理学科卒。好きな絵画の影響で14歳から独学で写真を学び、20歳の頃から山岳写真に傾倒する。2001年には月刊誌『山と渓谷』の表紙撮影を1年間担当。主な写真集に『白馬 SHIROUMA』(2005年)、『白馬岳 自然の息吹き』(2011年) 、『アルプス星夜』(2016年)(共に、山と溪谷社)、『山の星月夜 -眠らない日本アルプス-』(2008年)(小学館)など。2007年、長野県白馬村和田野の森に菊池哲男山岳フォトアートギャラリーがオープン。東京都写真美術館にも作品が多数収蔵されている。フランスのアウトドアブランド「ミレー」のテクニカルアドバイザーを20年以上務める。公益社団法人日本写真家協会会員、公益社団法人日本写真協会会員。