女性の内面を具現化したポートレート
今回のみは趣向を変えて筆者の思いを書かせてもらった。数々のポートレート作品を撮り続ける写真家の河野英喜さん。僕が河野さんのポートレート写真を好きになったのは、そこに「躍動感」を感じたからだ。僕にとってのいい写真というのは、その写真の前後に「物語」を感じるかどうかだ。そして河野さんの写真には物語性を感じることが多かったのだが、それよりもさらに僕を虜にしたのはそこに感じる「躍動感」だった。
河野さんはいつもこう話してくれる。
「写真にその場の空気感や風を感じるときにシャッターを自然と切っている。そこにはモデルと僕の世界が広がっているんだよね」
それこそが河野さんの写真の「チカラ」であり、凄さなのだろう。筆者もポートレート写真をよく撮る。だからこそ難しさをよく理解しているつもりだ。モデルはその場の雰囲気にとても敏感なうえ繊細。そんなモデルの一番素敵な瞬間を引き出すには、それなりの勇気と覚悟が必要だ。河野さんの写真にはその「覚悟」を感じる。だからこそ、モデルもそれに応えてくれるのだろう。
河野さんとは数年前アサヒカメラ内での特集でポートレート撮影について二人で対談したことがある。その時に「あわよくばの精神」(笑)が大切だねと話したことがある。今となってはとても懐かしいが、それこそが今のポートレートには必要なのではと感じる。適度なエロスとそれを感じさせない清潔感の融合。河野さんの写真にはその二人の重要な要素が揃っている。
河野英喜 こうの・ひでき
島根県浜田市出身 中学から人物写真に興味を持ち写真は独学で習得。その後1992年広告制作会社アドフォーカスに入社1994同社を退社しフリーとなる。以後広告・ファッション誌を中心に撮影する傍ら、近年では女優や俳優、各界のアーティストなどを主軸に撮影する。またタレント・声優を被写体として各誌表紙・口絵、その他写真集書籍なども多数手掛ける。写真専門誌やメーカー主催の写真教室などで撮影指導、写真審査、執筆など幅広い活動もしている。公益社団法人日本写真家協会(JPS)会員。